02 ベッカライ・ブロートハイム 成瀬 優|Artisan 若き職人たちの現在地

Artisan
Interview02 成瀬 優
どんな時でも、“パンを作り続けること”が、職人の使命。

—成瀬さんはブーランジェとして日々厨房に立たれていますが、外出自粛などによる影響はありましたか?

 お客様に店先でお待ちいただく時も多かったのですが、感染症が大きく報道されるようになった3月頃からは、さらに列が長くなりました。パンをデパートやホテルなどで買い求めていたお客様が、初めてご来店されるケースも増えたと思います。ですから、普段ならお客様が多い土日用に用意する量のパンを、平日も用意する状況でした。2011 年に発生した東日本大震災の時も同じだったと話していたのがオーナーシェフです。「どんな時でも、足を運んでくださるお客様のために、パンを作り続けることが職人の使命」という掛け声のもと、私たちも奮起して厨房に立ち続けました。
結果的に、ブーランジェとして腕を上げることができたと思います。営業時間を短縮する中で、クオリティを保ちながらスピードアップを目指したからです。私は現在パン生地を成形する工程を担当していますが、以前は精一杯と思っていたことが、当たり前にできるようになり、自分の限界が広くなったという実感があります。そして、厨房では今まで以上にチームワークが求められたので、パン作りに欠かせないコミュニケーション力も磨かれたと思います。

—パン作りやパンという商品に、どのような魅力を感じていますか?

 作り手として感じる魅力は、完成度100%のパンは存在しないという“難しさ"で す。たとえば、楽譜を渡されてもモーツァルトと同じようには弾けないように、レシピが同じでも出来上がるパンは作り手によって変わります。それに、イーストで発酵させるパンは生き物といえます。上手く出来ないと思っていても、予想に反して最高のパンが焼き上がることも少なくありません。見た目が美しくても美味しいとは限りませんし、機械ではなく手作りの方が美味しいと感じるパンもあります。良い意味で裏切られるところに、私はパン作りの面白さや奥深さを感じています。 
パンは、お米と同様に身近な食品で、比較的どこでも手に入るものです。今回のコロナウイ ルスの件で、たくさんの方に買い求められていく様子をニュースで見た時、パンは危機的な状況でも真価を発揮するとあらためて思いました。ブーランジェという職業に誇りを感じましたし、“たかがパン、されどパン"という一面にも大きな魅力があると思います。

—就職して5年目を迎えたと聞きましたが、未来に向けて取り組みたいことや、ブーランジェとしてどのように大成していきたいと考えているか聞かせてください。

 私はもともと不器用で、自分の感覚というものをあまり頼りにしていません。専門学校に進学したのも、パン作りを基礎から理論的に学びたいと思ったからです。
現在勤務しているブロートハイムは、商品を実際に食べてみて、日本一美味しいと感じたので入店を志願しました。「腕を磨くなら、この店しかない」と思って門を叩いたので、今後さらに他のブーランジェリーで経験を積む可能性は低いかもしれません。次のステップとしては、パンが持つ魅力や可能性を探究したいという気持ちが今は強いので、パンメーカーの研究開発職に転職するという道もあると考えています。一方で、家業が代々続く製パン会社で、4代目である父も地元でオーナーとしてブーランジェリーを営んでいます。先のことはわかりませんが、タイミングや目指す理想像などが合えば、それまでに培った技術や経験を活かして後を継ぎたいとも考えています。
どんな職業を目指すにしても、苦労は付きものです。大事なことは、決めたことをとことんやり切ってみることだと思います。パン作りに魅力を感じているなら、ぜひチャレンジしてください。お互いに切磋琢磨しながら究めましょう。

【Profile 成瀬 優】
高校卒業後、大学進学を経てブーランジェになることを志し、東京製菓学校・パン本科に入学。2016年3月の卒業と同時に、国内屈指のブーランジェリー『ベッカライ・ブロートハイム』に就職。ベーカリーワールドカップの元審査員長であり、同校で非常勤講師も務めるオーナーシェフ、明石克彦氏のもとで技術を学ぶ。実家がある岐阜県高山市では、父である成瀬 正氏が全国で知られる人気店『トラン・ブルー』を営んでいる。

学校法人 東京綜合食品学園|学校法人/ 専門学校 東京製菓学校
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