01 ル・パティシエ・ヨコヤマ 安 碧乃|Artisan 若き職人たちの現在地

Artisan
Interview01 安 碧乃
“幸せな時間”を望まれるかぎり、私はお菓子と生きていく。

—安さんは就職して2年目に入った今年4月から、念願の製造職に配置されたと聞きました。ちょうど新型コロナウイルス感染症の影響が表れ始めた時期ですが、どのような心境でしたか?

 3月まで販売職を任されていたこともあり、いよいよ厨房に立てるという喜びを噛みしめていましたが、やはり不安の方が大きかったです。「お客様が来店されなくなるかもしれない」、「自宅待機になって働けなくなるのではないか」と、先行きのことが心配になりました。
しかし、予想に反して、お店は大忙しに。特に外出自粛が始まった4月は、お客様の数が平日でも休日並みに増えたのです。そこで、全スタッフが一丸となって取り組んだのが、徹底的な感染対策でした。マスクの着用はもちろん、接客の場面ではご注文されたホールケーキを箱から出して確認していただくことを控えたり、普段はあえて外から見えるようにしている厨房内をロールカーテンで塞ぐなど、お客様に少しでも不安を与えないように配慮も行いました。
完成した製品を店内に陳列する際、聞こえてくるのがお客様の会話です。「ずっと家にいますし、学校が休校になった子どもたちの面倒を見ていたら、自分にご褒美をあげたくなっちゃって」。そんな心の内に触れて実感したのは、お菓子が持つチカラでした。テイストやデザインで感動を与えるだけではなく、人の心を癒し、至福の一時を提供できるということです。「お菓子の価値は、時間にある」。そう気づくことができたことは、パティシエールの道を歩んでいく上で大きな収穫でした。

—なぜパティシエールを目指そうと思ったのですか?どのように進路を決めたのかも聞かせてください。

 きっかけとしては、母の存在が大きいと思います。小さな頃から、よく焼き菓子やケーキ、プリンなどを作って食べさせてくれました。そのうちに隣で一緒に作るようになって、友だちやご近所さんにも振る舞うと、「美味しい!もっと作って!!」とすごく喜んでもらえたのです。それが原体験で、「こんなに人を幸せな気持ちにする職業は他にない!」と思い、中学生の頃にはパティシエールになろうと心に決めていたと思います。
通った高校は進学校だったので、ほとんどの友だちが大学進学を目指していました。その一方で私は、「本当に学びたいことは何?」と自分に問いかけてみても、洋菓子作り以外に考えられませんでした。もちろん、中途半端な覚悟でなれる職業ではないと思いました。ただ、好きなことであれば、どんな苦労も乗り越えられるはずです。専門学校への進学は、今でも正しい選択だったと思います。

—これから取り組んでいきたいことや、将来の目標について教えてください。

 現在担当させてもらっているのは、商品に使う大量のフルーツをカットしたり、カスタードを炊いたり、ケーキやプリンの型を洗うといった仕込み前の準備です。まだ厨房に入ったばかりなので、早く仕事を覚えたいと思っていますし、自分にできることが一つずつ増えていくことを楽しんでいます。そんな毎日の原動力になっているのは、お菓子を必要としている人がたくさんいるということです。特別な日のための贅沢品や嗜好品というだけではなく、心に和らぎを与えるものとして、どんなに時代や生活スタイルが変わっても必要とされ続けると、私はお菓子のチカラを信じています。
将来の目標を聞かれると、「世界のコンクールで優勝したい」とか「自分のお店を開きたい」と語る人が多いのかもしれませんが、私が目指しているのは、そんな夢を実現できる職人を製菓学校の教師となって“育てること"です。長い道のりだと思いますが、私のように踏み出した後輩たちの力になることで、少しでも未来の洋菓子業界を盛り上げていけたらと思っています。

【Profile 安 碧乃】
高校時代は進学校に通い、クラスメイトの多くが大学進学を目指すなか、パティシエールの道を切望して周囲を説得。東京製菓学校・洋菓子本科に入学した。2019年3月の卒業と同時に、千葉県内でトップクラスの売上を誇る地域密着型のパティスリー『ル・パティシェ・ヨコヤマ』に就職。一流ホテルで修行し、数々のコンクール受賞歴をもつ同店のオーナーパティシエ横山知之氏のもと、2020年4月より製造職として厨房に立つ。

学校法人 東京綜合食品学園|学校法人/ 専門学校 東京製菓学校
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